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歯には、大きく分けて2つの大事な役割があります。
ひとつは『噛む』こと。
もうひとつは『話す』ことです。
もし歯がなくなれば、この2つのことが満足にできなくなってしまいます。
美味しく食べること、誰かとおしゃべりをすることは人間の幸せにとってとても大切なことです。
ぜひこの機能を無くさないように、歯の持つ大切な役割をしっかりと理解して、歯を守っていきましょう。
『噛む』と一言で言っても、その過程は複雑です。
まずは目の前にある食べものを噛み切って口の中に入れます。それを細かく砕き、奥歯ですりつぶし飲み込みやすい状態にしていきます。
これは食べものを口の中に飲み込むだけでなく、消化していくためにも必要な過程です。
そしてこの過程をスムーズに行うためには歯にも本数が必要になってきます。
1本だけでに食べものを消化に良い状態にするのにはとても時間がかかりますが、親知らずをのぞいても28本生えてくる永久歯を使えば、これを効率的に行うことができます。
厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、歯の本数が20本以上の人は、19本以下に比べて、何でも噛んで食べることができる人が多いという調査結果もあります。
また、20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足することができると言われています。
1989年(平成元年)より厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という8020(ハチマルニイマル)運動が始まりました。これには「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との願いを込められています。
(おいしく噛めるために必要な歯の本数)
・0~5歯:うどん、バナナ、ナスの煮付けなど
・6~17歯:豚肉(薄切り)、れんこん、きんぴらごぼう、せんべい、かまぼこ、おこわ
・18~28歯:たくあん、フランスパン、堅焼きせんべい、スルメイカ
このように栄養バランスよく、さまざまな食べものをおいしく食べるには歯の本数が残っていることが大切になります。
栄養バランスが偏ることなく、さまざまなものを食べられることは栄養補給だけでなく、毎日の生活の楽しみにもつながります。家族や友人とのコミュニケーションの機会も多くなるでしょう。
噛むことは脳への刺激にもなります。楽しく充実した生活を送り続けるためには、歯の本数を維持していくことが大切です。
もうひとつの大事な歯の役割として『話す』ことがあります。
歯がないと口の中で空気が漏れてしまい、満足に発音することができません。
例えば前歯がなければサ行・タ行はうまく発音できませんし、奥歯を失うとハ行やラ行が発音しにくい状態になります。一般的に受け口と言われるかみ合わせである「下顎前突」では、英語の「f」や「v」の発音が難しくなります。
歯がなくなると隣の歯が倒れてきたり、かみ合っていた歯が伸びてきたりとかみ合わせにも影響がでてきます。片方の奥歯を失うと、反対側でばかり噛んでしまうため顔の筋肉のつき方までも変わってきます。歯を失うことが口元の印象や表情、顔の形までも変えてしまうことがあります。
歯の生えはじめは生後6ヶ月です。
それから3歳頃までにはすべての乳歯が生えそろい、20本になります。
成人するまでに永久歯が28本、親知らずまで含めると32本の歯が生えてきます。
最近では親知らずが生えない人も増えていますが、基本的には28本の永久歯を大切にメンテナンスしながら、食べものを食べたり、話したりしていくことになります。
28本の歯はそれぞれ形が異なり、大きく分けて3種類の役割を果たします。
真ん中にあるのが食べものを切るための「切歯」と言われるもので、平たい形をしています。
そしてその横にあるのが、切り裂くために尖端が尖っている「犬歯」です。
奥にあるのが、食べものをよくすりつぶすように臼状になっている「臼歯」です。
これらの異なる形をした歯は、通常は上下がうまくかみ合わさることによりきちんと機能します。例えば、食べものを切り裂くには、上の犬歯が下の犬歯と第一小臼歯という歯にかみ合うことが必要です。
このかみ合わせがズレたりすると、思うように食べものを切り裂くことができません。
また奥にある臼歯も、上下の臼歯がバランスよくきれいにかみ合うことで食べものをうまくすりつぶすことができます。
このように、歯の本数がきちんとあることと、それが正しくかみ合っていることが食べることには重要です。
1本でも歯を失ったまま放置しておくと、上下や左右の歯のバランスが崩れ、歯が倒れてきたり、かみ合う歯が伸びてくることで、うまく噛めなくなってしまいます。
「1本歯がなくなったけど、他にもたくさん歯があるから大丈夫」「奥歯が抜けたけど、目立つ前歯ではないし、今のところ噛むのも問題ないから放っておこう」なんて思っていると、気づいたらお口の中全体のかみ合わせが変わってきてしまうかもしれません。
正しくかみ合う位置で歯は噛んでいないと、うまく機能もしませんし、変な擦り減り方をしてきてしまいます。
噛むことで歯にかかる圧力は自分の体重とほぼ同じと言われていますが、それだけの圧力が通常耐え得る方向ではない向きにかかると、歯が変な方向に動いてきます。歯を失った両脇の歯は隙間に向かって押され、かみ合わせも悪くなりますし、変な隙間もあいてきます。
歯みがきもしにくくなり、歯みがきの難易度は格段に上がり、むし歯や歯周病にもなりやすくなります。
このように、歯が1本なくなっても口の中のバランスは崩れ、一つの歯が担う役割を他の歯が補おうとすると負荷がかかってしまい、残った歯も失ってしまうことになりかねません。
もし歯が何らかの原因で抜けたり、機能しなくなってしまった場合は、できるだけ早く対処することが必要になってきます。
一生の間、自分の歯を保つのは難しいことだと思われますか?
スウェーデンでは、80歳の平均残存歯数(残っている歯の数)が21本もあります。
しかし、かつてはスウェーデンでもむし歯や歯周病にかかる人も多く、歯を失う人も少なくなかったのです。
現在のように、高齢になっても自分の歯を保てるようになった理由は、「予防歯科」という考え方が浸透したからです。
予防歯科とは、むし歯や歯周病など何かが起きてから治療するのではなく、起きる前のメンテナンスやケアにより「歯を予防的に守っていく」という考えに基づいています。
スウェーデンでは、政府が予防歯科の考えを国民に広めたことにより、歯を失う人が格段に減りました。
日本でも8020運動が始まってから、平均残存歯数は改善しつつありますが、皆さんの歯の健康に対する意識はどうでしょうか?
スウェーデンのように80歳で20本の歯を保つというのは、決して不可能なことではありません。ただ、そのためには今自分の歯を保っている人たちが、それを失わないように正しいメンテナンス、ケアをおこなうことが必要になってきます。
健康診断や人間ドックは職場や自治体からの指導もあり、受けていない人は少なくなっています。しかし、定期的な歯科検診についてはまだそこまで浸透していない状態で、何か症状が出てから受診という人が多いのも事実です。
歯科検診は異常がないかを診断するだけでなく、歯科医院での専門的なクリーニングを受ける良い機会です。日頃の自分のケアだけで取りきれなかったプラーク(細菌の塊)やできてしまった歯石を取ったりすることも歯科検診を受ける大きなメリットでもあります。
歯科医師、歯科衛生士など歯科医院のスタッフは歯に関する専門家ですので、歯や口の中に関しての豊富な知識があります。ですが、いくら我々が患者さんにとって必要と思われる知識や技術を施しても、患者さん自身が受け身な態度では、どうしても平均的なご説明にもなりやすく、適切な歯みがきなどのテクニックもなかなか身につきません。
「自分の歯を守ることができるのは自分自身」です。
口の中もそうですが、全身の健康を守るためにも、自分自身で健康を守っていくという意識を持つことが大事です。
ぜひ定期的に歯科医院へ検診へ行く習慣をつけ、生涯自分の歯で噛めるよう歯の健康を守っていきましょう。